ホーム > 中川実 - 浮遊間欠泉 > > アートスペース

アートスペース

| コメント(0) | トラックバック(0)



芸術はもう十分足りてる


と彼は言った


この宇宙はもう芸術作品を必要としてはいない
なぜならこの宇宙こそが
ミクロからマクロに至るまでことごとく
そのひとつひとつが
その全てが芸術作品だからだ


彼が一体何を言っているのか
全く分からなかったが
とりあえず黙っている事にした


なぜ人は芸術作品を創ろうとするのか
芸術作品を創る必要があると思っているからだ
つまり「足りてない」「十分ではない」と思っているからだ
だがそれは大きな間違いだ
わたしたちは生きている限り常に呼吸をしているわけだが
常に空気の存在を意識してはいないだろう
これは呼吸に限った話ではない
「存在はしているが意識はしていない」
わたしたちはしょっちゅうこの状態に陥る
しょっちゅうどころか「ほぼ常に」だ


「砂漠の水」とかいう
べらぼうに高価な水を一息に飲み干し
深く息をついてから彼は後を続けた


「ほぼ」と言ったのにはもちろん理由がある
「存在を意識する」のはどういう時か
失った時だ
正確には「失ったと思った時」だ


空っぽになったコップを手に取って
それを見つめながら


芸術は足りてる


ともう一度彼は言った
そこで素朴な疑問が頭に浮かんだ
彼に聞いてみた


この宇宙のミクロからマクロに至るまで
ことごとく全てが芸術作品なら
「足りてない」「十分ではない」と思いながら
芸術作品を創ろうとしている人やその行為もまた
その中に含まれているんじゃないの?


おもむろに白目をむいた彼は
ウェイターを呼びつけると
「砂漠の水」とやらのおかわりを注文した

Trackback(0)


(言及リンクのないトラックバックは無視されます)

Comment





サイドバー