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自然

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あるところに 一人の画家がいた
その画家の作品は世界に名立たる美術館に並び
どの作品をとっても値段がつかない
値段などつけられないくらい素晴らしいものだった


画家はある時 ある風景を前にして
その自然の美しさに心底感動し
完膚無きまでに打ちのめされた


この世界に この大自然よりも美しいものがあるだろうか
いや どう考えてもそんなものがあるわけがない
しかし しかし もしも
もしもそれを描く事ができたなら
わたしは宇宙一の芸術家だと言っても過言ではないだろう


こうして画家は自然を相手取り 勝負を挑んだ
その風景と比較するため いつもその場所に行っては
来る日も来る日も絵を描いた
何年も何年も 勝負は続いた
しかし自然には到底敵わなかった
誰よりも画家自身がそれを分かっていた
自然はといえば
まるで何事も無いかのように平然としていた
悔しさが憎しみに変わり 画家は空に唾を吐いた
当然の如く それは自らに返ってきた
大きく 重い絶望感が画家を襲った
「あれはもうだめだ」 「くるってしまった」 「おちぶれたもんだ」
そう言って人々はひそかに嘲笑した
しかし画家はあきらめなかった
長い長い年月が過ぎ
年老いて死期を迎えた頃 画家は言った


やった ついに とうとう完成した


と同時に 画家は息を引き取った
その顔には満ち足りた微笑みが浮かんでいた
画家の前には 一つのキャンバスがあった
ただひたすらに 真っ白なキャンバスが


多くのマスメディアがその場所に押し掛け
ニュースは世界中に知れ渡った
それをみた人々は ひそかな嘲笑をより一層大きくした
しかし
ついに自然は笑わなかった
相変わらず 何事も無かったかのように
自らの法則にしたがって
すこしずつその姿を変えていた


ある写真家が
ぱちり
とその風景をカメラに収めていた

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